2023/10/15

 

 

 「おじいちゃん、死んじゃった。」

自宅のトイレでうんこしながらTwitterを見ていた自分のもとに入った父方の祖父の訃報。姉からの電話だった。よりによって今!?うんこしてんだけど!?実家の母曰く、体調が急に悪くなり、毎日自宅から通っていたデイサービス施設から宿泊のできる施設へ移る手続きをした当日の出来事だったという。今月中には、という話だったらしいが、みるみるうちに悪化し、ころりと亡くなってしまった。親族の誰も死に目に会えなかった。亡くなる前々日までいつも通りに朝飯を食べてデイサービスの迎えの車に乗り込んでいったという。後期高齢者ではあるが、認知症以外はずっと健康で、本当に、急な出来事だった。おじいちゃん呑気にうんこしててごめん。

 葬儀は、通夜と告別式の両日近所の寺で執り行われた。セレモニーホールではなく。どうやら理由があるらしく、生前石積みの職人をしていた祖父がウン十年前にこの寺の修繕を一部担っていて、深い関係があるので……とのこと。修繕のために近所が発足した組織では「副総代長」なんて仰々しいポジションだったらしい。お坊さんの話で初めて知った。檀家なのでもちろん法事のたびにお世話にはなっているが、そんな深い関わりがあったとは。自分の名前の候補にこの寺の名前から一字もらうものがあったらしいことも納得できる。かっこいい名前なので是非そっちにしてほしかった。祖母の反対でしなかったらしい。残念。この寺、昔から馴染みがあるというのもあり、2日間とても居心地がよかった。中で座っていると心がスッと落ち着く。そしてお坊さんの読経の声が素晴らしく良い。参列した親族にも大好評だった。正直ここの墓に入りたいな~とちょっと思ってしまった。結婚したから無理だけど。もし80とかまで生きたらそのお坊さん先に亡くなってるだろうし。

 祖父は、無口な人だった。実家を出るまで同居していたのに、ほとんど話したことがない。「外面はいいが家では無口」、これは実家親族の男の特徴。加えていわゆる「昔の人」であり、身の回りのことは祖母が全てやっていて、それが当たり前だと思っていたのだろう。孫の相手も祖母の仕事の範疇だった。遊んでもらった記憶も、小遣いをくれた記憶もない。くれたものといえば、冬休み明けにクラスメイトが話しているのを遥かに下回る金額のお年玉とパチンコの景品くらいのもの。当然懐かない。火葬前の最期の別れの時間にもなんと言葉をかけていいのか分からなかった。無言で手を合わせて、それだけ。それでもまあ、泣いた。涙もろいのは父親譲り、そして祖母の葬儀中ず~っと爆泣きしていた祖父譲りでもある。よっぽど恨んでいない限り、それが誰であろうと人の死は悲しい。そんで母が「私たち、頑張ったよね?」なんて言うもんだからもっと泣けてきた。そう、私たちは頑張った。パチンコで借金を作って母の財布から金を盗る父、そのたびに起こる夫婦喧嘩、泣き叫ぶ母の声、それを庇う姉、荷物をまとめて実家に帰ろうとする母を呆れた顔で見ている祖父母。そんな家庭で生きてきた。それなのに母は、認知症で要介護認定のステージがどんどん上がっていく祖父と、相変わらずパチンコで借金をこさえる父と同居していた。まあ祖父は体は健康だったので介護の必要はなかったものの、苦労は多かっただろう。自分も家庭環境のせいで苦しんだことが多々あった。その後遺症は私にも、そしておそらく母にも姉にも何かしらの悪影響を及ぼしている。でも人のせいにしてもしょうがない。不幸にも生まれてしまったので。自分で幸福を掴み取るしかないのである。

 「自分を大切にすることは先祖を大切にすることと同義」とは、前述の声の良いお坊さんの言葉。正直自分のことも先祖のことも大切にしたいとは思えないような人生だった。ただ、大好きな母がいつか先祖と呼ばれる日が来ることを考えると、自分を大切にして幸福にしてあげることが母の幸せになるんだよな。何度も死のうとしたし今でも思ってるけど、どんなに苦しい思いをしても自分が幸福になるための選択をしていかなきゃいけないなあ、と思った。この気持ちがずっと続けばいいけどなかなかね。死にたがりの君なら分かってくれるよな。これはエゴだけど、友達の葬式とか絶対嫌だからおまえら死なないでくれよ。頼むよ。おれより絶対長生きしてくれ。おまえらの親族に生前仲良くしてくれたみたいで、とか言われんの絶対嫌だからな。

 正直今自分はたくさんある人生の岐路のうちのひとつに立ってる。というか今じゃなくて今も、の方が正しいか。どうなるにしろ、自分を幸福にしたい。この生きる苦しみともいつかおさらばしたい。死以外の方法で。死にたくない。死ぬのは怖い。じゃあどうしたらいいかって分からないんですけど。それが分かれば宗教なんてものはここまで流行してないわな。とにかく皆さん死なないでほしいです。いつまでも元気な姿を見せてください。